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それぞれの青空

NHKのドキュメント番組で、ある歌人が人から悩みを募り、それを元にして短歌を詠む、ということをしていた。この番組の企画というわけではなく(それではドキュメンタリーではない)、元々そういうことをしていて、そうやって詠んだ歌で仕立てた歌集も出しているらしい。悩みを送ってきた人に対し、作った歌を手書きして封書で送る、などということをしているようなので、まさか無料ということはあるまい、しかしだとしたら料金を取っているのだろうか、この人はその報酬で暮しているのだろうか、だとすれば変形的な路上詩人の類なのだろうか、などと思ったが、それを歌集にして、話題となり、まんまとNHKのドキュメンタリーになっているのだと判って、腑に落ちた。お金儲けのために、人はさまざまな工夫を凝らすことだな。
 短歌そのもののことについては、特になにか言おうとは思わない。言うのは野暮だ。だってこれは別にその歌人の、心の叫びとか、自己表現とか、そういうものじゃないのだ。ただの、「他人の悩みに対するちょっと気取った詩的な言い回しの文言」であり、それ以上でもそれ以下でもない。だから短歌として価値がなくてもいいんです、相談者の心に刺さればそれでいいんです、という、歌人としての逃げ道がしっかり用意されているのだな、とも思った。
 不思議だと思ったのは、相談者たちだ。相談者たちの悩みはかなり具体的で、しかしまあ煎じ詰めれば大体が、「うまくやれない自分」についてのことで、そういうことに苛まれる輩というのは短歌を詠みがちなので、そんなようなことをテーマにした短歌はこの世にごまんと、ごまんどころではなくたぶん500億首くらい既にあり、もう新たに生み出す必要は、だいぶ前から皆無なのだけど、そうは言っても、それはそれとして、お前ら自分で詠めばいいじゃん、と強く思った。なんで500億首も既に世の中にあるのかといえば、お前らみたいな輩が、悩み、詠み、救われ、傷つき、詠み、癒され、という不毛な繰り返しをひたすらしてきたからで、でもマスターベーションのことを不毛な繰り返しと言ってしまったら、もう生きる意味が完全になくなってしまうので、それはそれで貫き通せばいいとも思うのだけど、とにかく、人気の歌人だかなんだか知らないが、他人に詠んでもらうんじゃなくて、自分が救われるくらいの短歌、自分で詠みなさいよ、と思った。短歌を詠めない人もいるんです、なんてことはない。詠める。短歌は、本当に、誰でも詠める。そして歌人(と名乗る人)の短歌が素人の短歌に較べてすごいなんてことも、ない。あった試しがない。リスペクトなんか一切必要ない。番組では、何人かの相談者が、各々の境遇における「うまくやれない自分」について相談し、そのたびに歌人は「それぞれの青空が広がってるよ」みたいな短歌を返していた。それ見たことか。このジャンルの500億首、結局いつもそんなんだ。そんなもんなのだ。だから本当に、自分でやればいい。自慰でいい。わざわざ人に開陳しようとするんじゃない。発育の悩みを相談し、「写真を送って」と言われて本当に送ってしまい、それをネタに恐喝される女の子じゃないのだから、自分で処理しろよ。
 しかし短歌を中心にしたこのやり取りは本当にくだらなかったが、権威が、その権威を笠に着て、一般人同士では決して成り立たないやり取りを可能にしてしまうという、これもまた太古の昔からある現象だけど、それはやはり尊いと改めて思った。ヌードを描いてほしいと頼まれる絵描きであったり、ヌードを撮ってくれと頼まれるカメラマンであったり。そういう権威に弱い、権威と自分を関わらせたい女って、いつの世も一定数いるだろう(いまどきここまで女性蔑視的な物言いをする人間もそうそういないと思う)。相談者たちが自分で短歌を詠まないのも、そういう心理かもしれないとも思う。権威とは、要するに公共性だろう。公共の場であるから、個性は弱まり、自分の存在が軽くなり、さらけ出しやすくなる。
 ならば僕もやりたい。僕も公共の場を作りたい。場が出来れば、女の子たちは気軽に僕のほうを向いて脚を広げてマスターベーションを披露してくれるようになるという寸法だ。そして僕の専門ジャンルは、やはりエロ短歌ということになるので、エロス方面の悩みを相談するプラットフォームを作り、そこに寄せられた相談をもとに、僕というエロ短歌の権威が、あなたの心に寄り添った歌を詠んでさしあげるのだ。
 たとえば、「おっぱいが大きすぎるのが悩みのタネです……」という相談が寄せられたとする。それに対し僕はこう詠む。

「それぞれのおっぱいだからいいんだよ その大きさがちょうどなんだよ」

 たとえば、「水泳の授業が恥ずかしいです……」という相談。それに対し僕はこう詠む。

「恥ずかしく思う気持ちが恥ずかしい 性的自意識過剰なお前」

 たとえば、「親友のゆっこの彼氏のことが気になっている自分がいます……」という相談。それに対し僕はこう詠む。

「マンネリのゆっこと彼氏は3Pに 今ごろ思いを馳せているやも」
「こうなったらウチとゆっこのどっちが 瀬田君を気持ちよくできるか勝負よ」

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